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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
と義雄は言って、弟の留守中に訪問を受けた人達の名とか、兄自身に対して厚意を寄せてくれた人達の名とか、殊に弟の留守中に兄の一時煩ったことから、その折に援助を受けた親戚の名とか、それらを岸本に話し聞かせた。万事上手に、上手にと、手強く出ようとする方の兄は、言うだけのことを言ってしまわなければ気が済まないという風で、それから自身に書いた書付を出して岸本に見せた。
「これは、まあ参考までに見せて置くが――」
と言って義雄は別の書付をも出した。
「嘉代(嫂の名)、お前の方の書付も叔父さんに出して見せるといい」
と義雄は嫂をもその二人ぎりのところへ呼んで言った。
岸本は手を揉みながら兄夫婦の前を引きさがった。その時になって彼は自分の留守中いかに兄の骨の折れたかを知った。「お前が仏蘭西から帰って来るまでには、俺も大いに雄飛するつもりだ」と言って以前に手を分った兄の身にも、まだ時節というもののめぐって来ていないことを知った。そればかりではない、恐らく後になって振返って見ても、自分の留守の三年が兄の生涯の中での一番苦しい時代であったろうということをすら知った。彼はまた、自分の許され難い罪過がとにもかくにも三年の間この家を支る細い力の一つであったような、そんな世の中の不思議にも思い当った。