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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

二十四

幾つかに分れた岸本兄弟の家の過去は互に助けたり助けられたりであった。その親譲りの精神に富んだ兄の情誼に対しても、岸本は今々自分が国へ帰って来たばかりだ、まだ息を吐く間も無いとは、どうしても言えなかった。多くの人に心配ばかり掛けて来た自分の旅が実際如何なるものであったか、その中で子供等を養おうとした自分の苦心をも察して欲しいとは、どうしても言えなかった。まるで兄夫婦を欺くようにして旅に上った自分の行為――それだ。第一それだ。「出来たことは仕方が無い、お前はもうこの事を忘れてしまえ」と言って、自分の一生の失敗を大目に見てくれたような、この兄の言うことなら、仮令どんな無理なことでも彼はそれを聞かなければ成らないように思った。

二十四

岸本は誰も家の人の居ないところへ行って、独りで自分の右の手を出して見た。そして自分に問い、自分に答えた。

「矢張、金の問題が附いて廻る――どうも仕方がない」

岸本はあだかも、手相を観る占者の前にでも出して見せるような手付をして、自分で自分の手を眺めた。その手を他から出された手のようにして出し直して見た。実際、それは誰の手でも無かった。