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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

三十

「お前は人一人をこんなにしてしまった」――そういう声が来て彼を責めたとする。よし節子を囲繞く一切の病的なものが悉く彼の責のあることでは無いにしても、それほど彼女を力の無いものとした根本の打撃は争われなかった。

節子の低気圧の何であるかは、どうしても岸本には知ることが出来なかった。それとなく岸本は姪の様子を見に行ったこともあった。北向の部屋の外には、裏木戸から勝手へ通う僅かばかりの空地がある。そこには日頃植物の好きな節子が以前の神田川に近い家の方から移し植えた萩がある。その花の押されたのは節子の便りと共に巴里の下宿の方へ届いたこともある。三年も経つ間には萩も大きくなった。節子は縁側に出て、独りで悄然と青い萩に対い合って、誰とも口を利きたくないという様子をしていた。

三十

ある日も、岸本は以前住った町の方に旧知を訪ねるつもりで、家を出る前に皆と一緒に食卓に就いた。丁度昼飯時で、兄の家族をはじめ学校の早びけを楽しむ泉太や繁まで一同そこへ揃った。

「叔父さんが仏蘭西から帰って来てから、家のものはまだ皆遠慮しています。皆これで猫を冠っています」

こんなことを串談半分に義雄が言出した。