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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
「どうして、一ちゃんなんかだって泉ちゃんや繁ちゃんの次席に坐らせられて、叔父さんでも居なかろうものならああして黙って食べているもんじゃない。皆これで猫を冠っています。この猫が冠りきれれば大したものだが――それこそ万歳だが」
と復た義雄が言った。泉太や繁等は義雄伯父から何を言出されるかという顔付で、伯父と並びながら食べていた。
「自分だっても猫を冠ってるくせに」
と嫂は義雄の方を見て鋭く言った。この嫂の皮肉は義雄を苦笑させた。
節子は母親と一郎の間に坐って、頭をさげたぎり、物も言わずに食べていた。何となく彼女の楽まない容子は、岸本にはそれがよく感じられた。
「まだ節ちゃんはあんな顔をしている」
そう思いながら岸本はその食卓を離れた。
どうしてそんなに節子の低気圧が続いているか。原因の知れないだけに、岸本には可哀そうに成って来た。それを気に掛けながら、彼は高輪の家を出て、岡に添うた坂道を電車の乗場まで歩いた。
電車で浅草橋まで乗って見ると、神田川の河岸がもう一度岸本の眼にあった。岸本は橋の上に立って、曾てよく歩き廻ったその河岸を橋の欄のところから眺めた。