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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

と泉太が眼を細くすると、「生意気ねえ」と快活な調子で言う姉の側に立っていて、「泉ちゃんだって、好いものは好いわねえ」と娘らしい歯を出して笑うのが節子であった。節子姉妹は岸本の知らない西洋草花の名なぞをよく知っていたが、殊に妹の方は精しくもあり、又た天性花を愛するような、物静かな、うち沈んだところを有っていた。「お前達はよくそれでもそんな名前を知ってる」と岸本が感心したように言った時、「花の名ぐらい知らなくって――ねえ、節ちゃん」と姉の方が言えば、「叔父さん、これ御覧なさい、甘い椿のような香気がするでしょう」と言ってチュウリップの咲いた鉢を持って来て見せたのも節子であった。これほど節子はまだ初々しかった。学窓を離れて来たばかりのような処女らしさがあった。その節子が年の暮あたりには何となく楽まないで、じっと考え込むような娘になった。

岸本の妻が残して置いて行った着物は、あらかたは生家の方へ返し、形見として郷里の姉へも分け、根岸の嫂にも姪にも分け、山の方にある知人へも分け、生前園子が懇意にしたような人達のところへは大抵分けて配ってしまって、岸本の手許には僅かしか残らないように成った。