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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

節子に起って来た脳貧血も割合に軽く済みそうに見えて来た。そのうちには岸本は静かに横に成っている姪をいたわりながら、こんなことを言って笑えるまでになった。

「随分お前も色が黒いんだね」

そう言われた節子はまた壁の方へ向いて両手で彼女の顔を隠すほど元気づいた。

家の方からは祖母さんが心配して一寸この二階へ節子を見に来た。祖母さんが帰って行く頃、節子は既に身を起していた。

「でも、妙なものですねえ」

と節子は岸本の方を見て、彼女の内部に起って来る無量の感慨をそうした僅な言葉で言い表して見せようとした。

その時、岸本の胸には旅にある間かずかずの腑に落ちない手紙を彼女から貰ったことが浮んで来た。神戸で受取り巴里で受取った姪の手紙は、今だに彼には疑問として残っていた。彼は初めてあの手紙のことを節子の前に言出して見る気に成った。

「どういうつもりでお前はああいう手紙を叔父さんの許へよこしたのかね」

この岸本の問には節子は何とも答えようのないという風で、黙ってうつむいてしまった。

「俺は又、お前が自分の子供のことを考えて、それでああいう手紙をくれるんだと思っていた――そうじゃないのかね」