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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
そこは一年のうちの最も日の短いという冬至前後になると、朝の九時頃に漸く夜が明けて、午後の三時半には既に日が暮れてしまった。あのボオドレエルの詩の中にあるような赤熱の色に燃えてしかも凍り果てるという太陽は、必ずしも北極の果を想像しないまでも、巴里の町を歩いていてよく見らるるものであった。枯々としたマロニエの並木の間に冬が来ても青々として枯れずにある草地の眺めばかりは特別な冬景色であったけれども、あの灰色に深い静寂なシャヴァンヌの『冬』の色調こそ彼地の自然には適わしいものであった。
――ことしは久しぶりで東京の郊外に冬籠りする。冬の日は光が屋内まで輝き満ちるようなことは過ぐる三年の間はなかったことだ。この季節に、底青く開けた空を望み得るということも、めずらしい。私の側へ来てささやいているのは確かに武蔵野の『冬』だ。
――『冬』は私に樫の樹を指して見せた。髪のように輝いたその葉の間には、歌わない小鳥が隠れて飛んでいて、言葉のない歌を告げ顔である……」
岸本は抑えに抑えている自分を慰めようとして紙のはじにこれを書きつけて見た。満天星も、梅も、躑躅も、椿も、樫も、彼の部屋の外の縁側から直庭先に見られるものだ。