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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
「我等芸術の憐むべき労働者よ。普通の人々にはしかく簡単に自由を与えらるることも我等には何故に許されぬのだろう。それも理である。普通の人々は真心を持つ。我等は遂に真心の何物をも持たぬ。我等は到底理解せられざる人間である……」
こうしたことを思い続けた岸本の上にも不思議な変化が日に日に起って来た。彼は持って生れたままの幼い心に立ち帰って行ける日が漸くやって来たことを思い知るように成った。その時になって彼は心から自分の情熱を寄せ得るもののあることを見出した。その歓びを見出した。彼のように寂しい道を歩きつづけて来たものでなければ、どうしてそれほど餓え渇いたように生の歓びを迎えるということがあろう。彼は自分のような旅人に与えられた自然の賜物であるとまで考えるほどにして、その新しい歓びに浸って行くように成った。
すべては岸本に取って心に驚かれることばかりのようであった。彼は自分の生涯の途中に、しかも老い行こうとする年頃の今になって、節子のような女が自分の内部へ入って来るように成ったことを一つの不思議とさえ考えた。彼はあの青木や菅や市川などと青春を競い合った年頃に逢った勝子のことを節子に思い比べて見た。