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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
岸本は節子が自分と同じように、黙って彼女の道を歩き出したことを想って見た。日頃「親の面汚し」のように言われている節子にも、その親のために役に立つ時が来た。年も暮れようとする頃に成って、突然義雄が重い眼病に罹ったからで。急にそんな風に義雄の眼が見えなく成って来た病の源に就いては、眼科を専門にする博士ですら未だハッキリしたことは言えないとのことであった。この義雄に随いて病院通いをするにしても、一切の手紙の代筆をするにしても、節子は谷中の家に取って無くてならない人に成って来た。彼女はその境遇の中で、高輪の方に心配している祖母さんや叔父のところへ父親の容態を知らせに来ることを怠らなかった。時としては彼女は寒い雨の降る日に谷中から通って来て、祖母さんの部屋の行火に凍えた身を温めながら、少し横に成っていることもあった。
「節ちゃん、お前まで弱ってしまっちゃ不可よ」
こう岸本はそこに疲れ倒れている節子を励ますように言って、彼女の眼に涌いて来る涙をそっと自分の口唇で拭うようにしてやることもあった。
師走ももうあと三日しかないほど押塞った日のこと、岸本は節子から送ってよこした短い手紙を受取った。