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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

六十六

「あの聖書の中に、汝等求めよ、さらば与えられん、尋ねよ、さらば遇わん、叩けよ、さらば啓かれんというところが御座いますね。もう少し前のあたりから、あの辺は私の好きなところで御座います。オオ叩けよ、さらば啓かれん――わたしどもはきっと最後の勝利者でございますね」

と鉛筆で認めてあった。

それを読むと、岸本の胸には二十五というさかりの歳を迎えようとする彼女のことが思われた。遠い先の方をめがけて自分を力に進もうとする彼女の胸の鼓動までも想像で聞くことが出来るように思われた。

「オオ、叩けよ、さらば啓かれん――」

岸本は節子の手紙に書いてある文句を繰返して見て、その調子で延び行こうとする彼女の生命を想像した。

六十六

「わたしどもほど、幸福な春を迎えるものがまたと御座いましょうか――」

年も尽きようとする前の晩に節子の書いたこの短い手紙が岸本の手に届いた。自分等二人ほどと彼女が言って見せた幸福な春は、まだまだ岸本には遠いところにあるとしか思われなかった。彼はそういう抑えきれない歓びの言葉が単なる負惜みに堕ちることを恐れた。どうかして彼は周囲のものに対する彼女の小さな反抗心を捨てさせたいと願った。