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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
一度彼は散歩がてら自分の家を出て、節子の通って来る路の途中まで彼女を迎えに行ったことがあった。品川線の電車の停留場のあるところから彼の家へ通うだけでも可成の歩きでがある。その日は、彼は高輪の通りからある横町を折れ曲ったところまで行き、高台に添うた坂道の上まで行き、その坂を降り電車の停留場までも行って待受けたが、到頭節子は来なかった。
正月の十五日過ぎに、岸本は同じ路を歩いて行くことを楽みに思いながら、ある大きな邸の外廓について郊外らしい途の曲り角へ出た。その辺で、谷中から遠く通って来る節子を待受けた。彼は黒い質素な風呂敷包なぞを小脇にかかえた彼女と一緒に成った。
節子は途次いろいろなことを思いながらやって来たという風で、岸本に随いて人通りも少い途を静かに歩いた。突当りに古風な格子のはまった窓の見える邸の側まで歩いて行った頃、彼女は岸本の方を見てこんなことを言出した。
「私はもう男に成りましたよ。お父さんはあの通りですし、一ちゃんでも次郎ちゃんでもまだ幼少いんですし、お母さんと二人でその話をしましてね、私はもう男に成りましたから、そのつもりでよくやりましょうねッて――」