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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
七十五
忍ぼうとすればするほど意地の悪い涙が後から後から流れて来て、終には御不興を受けたようであったが、どうぞすべての失礼を許してくれ、母としての自分の切な心を汲んでくれ、と書いてよこした。節子が自分の生んだ子供を思う心を直接に岸本に打明けたのは、それが初てであった。彼女は手紙の中の宛名をも今までのように「叔父さん」とは書かないで、「捨吉様」と書くほどの親しみを見せるように成った。同族の関係なぞは最早この世の符牒であるかのように見えて来た。残るものは唯、人と人との真実があるばかりのように成って来た。
七十五
「恋ふまじきおきてもあらで我が歩むこゝろの御国安くもあるかな
かゞやける道あゆみ行く二人なり鴛鴦のちぎりもなど羨まむ
我がをしへしのぶにいともふさはしき春さめそゝぐ夕ぐれの窓
夕ぐれの窓によりては君おもふわれにも似たる春のあめかな
君をおもひ子を思ひては春の夜のゆめものどかにむすばざりけり
いくとせか別れうらみし我身にもまたとこしへの春は来にけり
萌えいでし若葉にそゝぐ春さめをかなしきものと思ひ初めけり
君まさむ船路はるかにしのびつゝ聞きし雨ともおもほへぬかな