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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
そこには全く世間というものから離れたかのような静かさがあった。底青い空の方から射して来ている四月はじめの日の光が二人の眼前に落ちていた。岸本は自分の右の手を節子の左の手につなぎ合せて、日のあたった墓石の間を極く静かに歩いた。あだかも、この世ならぬ夫婦のような親しみが黙し勝ちに歩いている節子の手を通して岸本の胸に伝わって来た。
しかしこのはかない幻のような心持は直ぐに破れた。丁度その小山の上あたりは品川の電車路から高輪へ通う人達の通路に当っていた。節子は元来た道の方へ石段を降りかけようとしたところで、傾斜の半途に蔭の落ちている常磐木の間を通して、逸早く向うの方から歩いて来る人の影を見つけた。そして岸本の側から離れた。
「向うへ行こう。お墓に腰でも掛けて話そう」
と岸本は言って、節子と一緒にその石段を降りた。
七十八
「どうして俺は自分の姪なぞにお前のような人を見つけたろう。何故もっと他の人にお前を見つけなかったろう」
岸本は元来た墓地の一区域へ引返して行ってから節子にそれを言出した。節子は墓の隅に小さな子を敷いて、例の灰色のコートのままその石の上に腰掛けた。