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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
義雄は部屋の片隅に節子を呼んで親類宛の手紙の代筆なぞをさせていたし、輝子は物書く妹の側へ覗きに行ったり子供等の側へ寄ったりして、叔父の下宿を見るのもめずらしそうに二つ続いた部屋の内を往ったり来たりした。
「浅草の方にあった時計も掛っていますね」
と輝子は言った。
岸本の部屋の壁の上には古い柱時計があった。浅草から高輪へ移され、高輪から愛宕下へ移された八角形の時計は未だ振子の音を止めないで、園子の達者であった時代と同じように時を刻んでいた。その変らずにある時計の面までが、遠く離れていた親戚の復た一緒に成れる時の来たことを祝うかのように見えた。
夕飯には岸本は中根夫婦の帰朝を祝う意ばかりに一同へ鳥の肉を振舞うことにした。女中は母屋の方から食卓だの、食器だの、焼鍋だの、火を入れた焜炉だのを順に運んで来た。やがてかしわの肉を盛った大きな皿までがそこへ揃った。
「節ちゃん、この肉はお前に頼もう」
と岸本が節子の前に立って言うと、そこへ輝子も来て、
「じゃ、ここは節ちゃんと私と二人で引受けましょう」
と言って手伝い始めた。
節子はすでに焜炉の前に坐っていた。熱くなった鍋に鳥の脂肪の溶けて行く音を聞きつけて、四人の子供は思い思いに食卓の周囲に坐ろうとした。