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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
九十九
「お父さんは私の側へお坐り下さい」
と輝子に言われて、義雄は自慢な婿や姉娘の帰国に眼の不自由も忘れているかのように見えた。
「お鍋がすこし遠方ですから、お父さんには取って進げますよ」と輝子はその場を取做すように言った。
「ようし」と言いながら、義雄は眼病以来の癖のように一寸食器を手でさぐって、それを自分の方へ引寄せた。
「さあ、中根さん」と岸本は輝子と差向いに食卓に就いた中根の方を見て言った。「今日は鳥の御馳走にしました――外国からお帰りになると、反ってこういうものの方が好かろうと思いましてね」
「久し振で皆さんと御一緒に頂きますかナ」と言って洋服のままかしこまる中根の膝も痛そうであった。
岸本の子供等は父から声の掛るのを待受け顔であった。その側には父親似の眼付をした賢や、赤いリボンを髪にかけてニコニコした毬子が小鳥のように並んだ。
「賢さん、鳥は好き?」と泉太が訊いた。
「好き」と賢が答えた。
「僕もこれが大好きサ」と復た泉太が言った。
「頂きます」と繁は早や兄よりも先に箸を執りあげた。
楽しい食事の音がそこにもここにも起った。食卓の周囲に集まる親戚のものは熱い葱を噛み、鳥の肉を噛むのに余念も無かった。