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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
「義雄さんにお替りをして進げとくれ」と岸本は肉の片を頬張りながら輝子に言った。
「さあ、お替えなすって。ずんずん煮えますから」と輝子は隣の方へ手を出して見せた。
「節ちゃん、お前もお上りよ」こう岸本は節子にも言って、皿にある薄赤い鳥の生肉を順に鍋の方へと移した。取替え引替え子供等のお替りで、煮ながら食うものはいそがしかった。
「お節ちゃん、葱を入れないで下さい」
「僕には蒟蒻ばかり」
こんな註文が遠慮なく煮方の方へやって来た。
「中根さん、もっと召上って下さいませんか」
と岸本に言われても、中根は時々膝の上に箸を休めて、食うことよりも寧ろこの大人や子供の親しいものが一緒に集まった光景を楽むかのように見えた。
やがて一同は夕飯を終った。満腹した人達は食卓を離れて、思い思いのところに寛いだ。
「叔父さん、いずれすこし落着きましたら露西亜のお茶でも入れますから、私共へもいらしって頂きましょう」
「サモワアルも今度来る時に持って来ましたよ。あれでお茶を沸かすと、それはおいしいんですよ」
中根夫婦がかわるがわる話しかける話声も何となく岸本の下宿を賑かにした。
再会した親戚のもの同志が互の異郷の旅の話は一晩で尽くすべくもなかった。