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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
百
中根夫婦は渋谷の方に見つけた新しい住居へ、義雄と節子とは谷中へ、いずれも礼を言って立ちかけるのを岸本は泉太や繁と一緒に玄関まで見送った。兄、義理ある甥、姉妹の姪、甥子、それから姪子――それらの人達が一団として残して置いて行った空気は、皆帰って行った後に成っても妙に強い力で岸本の心を圧した。つくづく岸本は自分の現状を打破することの難いのを思った。
百
「父さん――お節ちゃんは僕等の第二の母さん?」
とある日、泉太が父の側へ来て訊いた。
岸本はこの問を出した子供の顔を見まもった。「どうしてお前はそんなことを訊く。誰かにそんなことを言われて来たのかい」
「だって、姉やが僕に訊くんだもの」
と言って泉太は困ったような顔をした。
「お前達には母さんは一人しか無いじゃないか」
と岸本は泉太を言いなだめたが、しかしこの子供の訊く「第二の母さん?」は、誰にそんなことを訊かれたよりも強く岸本の胸に徹えた。
泉太は最早この下宿から小学校の一番上の組に通うほどの少年であった。時々岸本は子供の顔を見ているうちに、父の仕事の手伝いとして通って来る節子がいかに泉太等の眼に映り、いかに少年の日の記憶として後まで残るであろうということを考えて、それを自分の幼かった時の記憶に結びつけて思い比べないではなかった。