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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

百八

と泉太や繁は言い合って、二人とも心配顔に電話口の下のところに集まっていた。嫂の手術が午後にあったことを岸本はその時の電話で知った。先方の声は節子で、手術後の病人の疲れて休んでいることや、父も今谷中の方から来ているということなぞを病院から知らせてよこした。

「今朝置いて来た手紙を姉さんは見て下すったろうか」と岸本はその電話口で訊いた。

「見ません」と節子の声で。

「あ、そうか、見なかったのか――」

「預って置いてくれと言いますから、私がお預りして置きました」

とまた節子の声で。

電話口を離れてから、岸本は自分の心持の十分に嫂に届かなかったことを残念に思いながら部屋の方へ戻って行った。

しかし岸本が実際に自分の為たことを皆の前に白状してしまおうと思って、本気でその支度に取り掛ろうとしたのも、嫂に宛てた手紙を書いた時からであった。節子の言草ではないが、黙って置きさえすればもう知れずに済む事だ。自分はこの通り愚かしいという事をわざわざ表白して、その結果はどうなる。この考えは幾度となく岸本を抑制めないではなかった。もしも台湾の民助兄夫婦や大阪の愛子夫婦なぞがこの事を知ったとしたら。