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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

俺はその時可笑しくなった。兄貴がそう言って知らずにいるところが可笑しくなった。しかし、俺は岸本の家ということを考える。祖先伝来の岸本の家の名誉ということを考える、中味はともあれだ、岸本捨吉で立てて置けば人も知らずに済むし、家の名前も汚さずに済むし、祖先に対しても面目を失わないというものだ。俺はそのくらい大きく考えてる。岸本の家の名誉に比べたら、節ちゃん一人の間違いぐらいは何でもないことだ。寧ろあんなものは間違いがあってくれれば可いぐらいに考えてる。そのくらい俺は岸本兄弟のためという事を重く視てる」

義雄の声は次第に高くなって、離座敷から母屋の座敷の方へ響けて行った。その時まで岸本は首を垂れて兄の言うことを聞いていたが、この兄にも黙って自分の秘密を捨てようとしていることに想い到った。いずれは兄の勘当を受けようとまで心を決めている矢先だ。彼は自ら進んで被告の位置に立とうとした。節子の縁談のことで訪ねて来た兄の話頭を自分の上に向けて貰おうとした。

「多分、兄さんは私が旅に出た時のこともよく御存じないだろうと思いますが――」と岸本が言出した。「国の方に子供でもなければ、二度と兄さんにお目に掛るつもりはありませんでした」