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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

岸本は独りでそれを言って見て、一方には彼女を可哀そうに思い、一方にはそれを寧ろ彼女のために可いと考えた。岸本は確かに彼女の前途に進路が開けかかって来たことを想って見た。すくなくとも、彼女が今の境涯から動いて出られるというだけでも。

見ることの出来ないように成った節子を思いやりながら、岸本はよく子供を連れて夕方から町の空へ出た。往来で行き逢う人々の中にも、彼は節子と同じような年頃の婦人を見かけて、それらの知らない人の通り過ぎる影に彼女を思い比べることがあった。そういう場合の彼は後姿なぞの節子に似た人をどうかすると見かけるまでであって、髪のかたち一つ彼女と同じものに遭遇すということさえ殆ど無かった。節子の髪の形は矢張彼女一人の特有なものであった。それに似よりのものを彼女の身内の人達に求めると、一番彼女に近い筈の亡くなった嫂を想い出さないで、反って祖母さんの方を思い出すのが岸本の常であった。祖母さんはもう好い年齢で、頭の上あたりは禿げ、髪もあらかた抜け落ちてしまったが、未だそれでも後の方には房々とした毛の残りを見せている人だ。それを集めれば、どうにか老人らしい髪ぐらいは結える人だ。