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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
「叔父さんでいらっしゃいますか――」
ある晩、節子の声が復た掛って来た。
「なんですか、三晩も続けて叔父さんの夢を見たもんですから――あまり気になりましてね――どうかなすったんじゃないかと思いましてね――皆さんお変りもありませんか――」
と節子の方から訊いた。
その時、岸本は彼女の話で台湾の民助兄が遠からず上京するということだけを確めた。尤も、あの兄の用事の都合で、上京の日取は未だ定まらないとのことではあったが。
「そうか。いよいよ台湾の兄貴が出て来るかね」と岸本は言った。「お前も是非お願いするがいい――自分の方から進んでお供をするがいい――」
「私もそう思いまして――」と節子の声で。
「今度はそっちが旅に出掛ける番だね――」
それを岸本が言うと、しばらく聞かない節子の楽しい笑声が彼の耳に伝わって来た。
岸本は堅く閉された大きな扉を隔てて、その内と外とで節子と言葉をかわすような思いをした。
電話が切れた後のシーンとした沈黙は谷中の方の夏の夜へ、明るく電燈の点いた町中の自働電話室へ、その電話口に立つ節子の方へ岸本の心を誘った。
百二十八
八月の末まで待った。