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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

お母さんが病院へ入ります前に、『お前がもし大病なような時でも、わたしにはこれだけのことはして進げられない』とよく言い言いしましたっけ。それにつけても、自分の直ぐ隣に居る人達を愛したくていながら、愛することの出来ないのは悲しいものとぞんじます。思えば僅かに心の顔を合せることの出来ましたお母さんとの間は、どんな他の人との関係にも勝って私の心に鮮かでございますが、その母子の愛情ですら私どもの創作には比較にも成らないような気が致します。これほどの創作が肉体と共に滅びてしまうようなものとは、どうしても考えられません。『神もし選び給わば、死して後なおよく愛することを得べし』とか。あの異国の婦人の言葉を私はどんなに嬉しく感じましたでしょう。今は創作の豊富を願うの外には何もございません。風吹かば吹け、雨降らば降れ――死の上にすら超越せしものなるを。

――私の健康を御心配下さることは何もございません。少しぐらいな無理も、溢るる希望の前には何でもございませんから……」

岸本は節子の心がここまで来たかと思い、何物にも蹂みにじられまいとする彼女の愛情の頼もしさを思い、同時にこれほど激した手紙を書かせる彼女の境涯の切なさを思った。