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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
「貴様まで賛成してくれれば俺も安心だ。これでまあ今度出て来た俺の役目も果せるというものだ。世の中のことは淡泊にかぎるよ。俺はその主義サ。何事でも淡泊でなけりゃ不可。あまりこだわり過ぎては不可。まあ何だわい、あれで節ちゃんも台湾へでも行ってだナ、すこし経って見たら、馬鹿々々しいことをしたと自分でもそう思うかも知れない」
「いや、それはすこし違います。あの人の心持が沈着いては来ましょうが、馬鹿々々しいことをしたとは考えまいと思います」
「まあ何でも可いや。心持が沈着きさえすれば、それで可い――」
秋らしい夜は何時の間にか更けて行った。「このくらいにして置いて、もう寝よう」という兄のために、岸本は女中の置いて行った夜具を延べたり、自分の床をその側に敷いたりして、兄弟枕を並べて寝た。少年時代の岸本が東京へ遊学するために一緒に徒歩で郷里の山々を越したのも、この兄だ。青年時代の彼がまた飄泊の旅から引返して来て、一旦家出をした恩人の田辺の許へきまりの悪い坊主頭で一緒に詫を入れに行ったのも、この兄だ。種々様々なことが寝床に入ってからも岸本の胸に満ちて来た。節子はどうなる――そこへ考えが落ちて行くと、彼は兄の言った言葉を思って見てよく眠らなかった。