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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
これから幾月の間、いかに彼女を保護し、いかに彼女を安全な位置に置き得るであろうか。つくづく彼は節子の思い悩んでいることが、彼女に取っての致命傷にも等しいことを感じた。
岸本は町へ出て行った。節子のために女の血を温め調えるという煎じ薬を買求めて来た。
「もっとお前も自分の身体を大切にしなくちゃいけないよ」
と言って、その薬の袋を節子に渡してやった。
夜が来た。岸本は自分の書斎へ上って行って、独りで机に対って見た。あの河岸に流れ着いた若い女の死体のことなぞが妙に意地悪く彼の胸に浮んで来た。
「節ちゃんはああいう人だから、ひょっとすると死ぬかも知れない」
この考えほど岸本の心を暗くするものは無かった。妻の園子を失った後二度と同じような結婚生活を繰返すまいと思っていた彼は、出来ることなら全く新規な生涯を始めたいと願っていた彼は、独身そのものを異性に対する一種の復讎とまで考えていた彼は、日頃煩わしく思う女のために――しかも一人の小さな姪のために、こうした暗いところへ落ちて行く自分の運命を実に心外にも腹立しくも思った。
思いもよらない悲しい思想があだかも閃光のように岸本の頭脳の内部を通過ぎた。