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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
岸本はこの友人に対してすら、何故そう「真面目」に取らずにはいられなかったというその自分の位置をどうしても打明けることが出来なかった。
とは言え、元園町からは助力を惜まないという意味の手紙を寄してくれた。この手紙が岸本を励した上に、幸いにも旅の思立ちを賛成してくれた人達のあったことは一層彼の心を奮い起たせた。それからの岸本は殆ど旅の支度に日を送った。そろそろ梅の咲き出すという頃には大体の旅の方針を定めることが出来るまでに成った。長いこと人も訪ねずに引籠みきりでいた彼は、神田へも行き、牛込へも行った。京橋へも行った。本郷へも行った。どうかして節子の身体がそれほど人の目につかないうちに支度を急ぎたいと願っていた。
「一度は欧羅巴を見ていらっしゃるというのも可かろうと思いますね。何もそんなにお急ぎに成る必要は無いでしょう――ゆっくりお出掛になっても可いでしょう」
番町の方の友人が岸本の家へ訪ねて来てくれた時に、その話が出た。この友人は岸本から見ると年少ではあったが、外国の旅の経験を有っていた。
「思い立った時に出掛けて行きませんとね、愚図々々してるうちには私も年を取ってしまいますから」