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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
屋外では音一つしなかった。以前の住居から持って来た古い柱時計の時を刻む音が際立って岸本の耳に聞えた。
「ほんとにこの辺は静かだね。山の中にでも居るようだね」
こう岸本は節子に話しかけながら、郊外らしい夜の静かさの中で、遠い旅立の支度を急いだ。岸本に取っては、めったに着たことの無い洋服をこれから先、身につけるというだけでも煩わしかった。彼は熱帯地方の航海のことなぞを想像して見て、その準備に思い煩った。
次第に夜は更けて行った。二人の子供の中でも、兄は早く眠った。弟の方は遅くまで眼を覚まして婆やを相手に子供らしい話をしていたが、やがてこれも寝沈った。
十二時打ち、一時打っても、まだ部屋の内はすっかり片付かなかった。「お前達はもう休んでおくれ」と岸本は節子や婆やに言った。「婆や、お前は明日の朝早い人だ。俺の方は構わなくても可い。遠慮しないでお休み」
「左様でございますか」と婆やは受けて、「ほんとに遠方へいらっしゃるというものは、御支度ばかりでも容易じゃござりません――旦那さん、それでは御先に御免蒙ります」
「節ちゃん、お前もお休み」
と岸本が言うと、節子の眼は涙でかがやいて来た。