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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
その身内のものが手錠、腰繩の姿で、裁判所の庭を通り過ぎようとした時、冠っていた編笠のかげから黙って彼に挨拶した時のことを思出すことが出来る。丁度あの囚人の姿こそ自分で自分の鞭を受けようとする岸本の心には適わしいものであった。眼に見えない編笠。眼に見えない手錠。そして眼に見えない腰繩。実際彼は生きて還れるか還れないか分らない遠い島にでも流されて行くような心持で、新橋の停車場の方へ向って行った。
寒い細い雨はしとしと降っていた。旧い停車場の石階を上ると、見送りに来てくれた人達が早やそこにもここにも集っていた。
「お目出度うございます」
とある書店の主人が彼の側へ来て挨拶した。
「今日はお目出度うございます」
と大川端の方でよく上方唄なぞを聞かせてくれた老妓が彼の側へ来た。この人は自分より年若な夫の落語家と連立って来て、一緒に挨拶した。
「こりゃ、困ったなあ」
この考えが見送りに来てくれた人達に逢うと同時に、岸本の胸へ来た。思いがけない人達までが彼の出発を聞き伝えて、順に彼の方へ近づいて来た。
岸本は高輪の方から婆やに連れられて来た子供等に逢った。婆やは改まった顔付で、よそいきの羽織なぞを着て、泉太と繁とを引連れていた。