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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

神戸へ着いてから四五日経つと、岸本は節子からの手紙を受取った。それは岸本から出した手紙の返事として寄したものであったが、子供等の無事なことや留守宅の用事のようなことばかりでなく、もっと彼女の心に立入ったことがその中に書いてあった。

神戸の港町から諏訪山の方へ通う坂の途中に見つけた心持の好い旅館の二階座敷で、彼はその手紙を読んで見た。すくなくも節子に起って来た不思議な心の変化がその中に書きあらわしてあった。過ぐる四五箇月の間、ある時は恐怖をもって、ある時は強い憎みをもって、ある時はまた親しみをもって叔父に対して来たような動揺した心の節子に比べると、その中には何となく別の節子が居た。岸本は自分の遠い旅に上って来たことから、何か急激な変化が不幸な姪の心に展けて来たことを感じない訳にいかなかった。

猶よくその手紙を繰返して見た。節子は岸本の方から詫びてやった一切の心持を――彼女に対して気の毒がる一切の心持を打消してよこした。今日までを考えると、どうして自分はこんなことに成って来たか、それを思うと自分ながら驚かれると書いてよこした。矢張自分は誘惑に勝てなかったのだと思うと書いてよこした。