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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
実は嘉代も今妊娠中であると書いてよこした。のみならず輝子も近いうちに帰国して、国の方でお産をしたいと言って来たと書いてよこした。この輝子の帰国がかちあえば事は少し面倒であると書いてよこした。しかし世の中のことは、曲りなりにもどうにか納りの着くものであると書いてよこした。当方一同無事、泉太も繁も元気で居ると書いてよこした。お前は国の方のことに懸念しないで、専心にそちらで自分の思うことを励めと書いてよこした。
岸本は人の知らない溜息を吐いた。仏蘭西語の読本を小脇に擁えて下宿を出、果実なぞの並べてある店頭を通過ぎて並木街の電車路を横ぎり、産科病院の古い石の塀について天文台の前を語学の教師の家の方へと折れ曲って行った。そして語学の稽古を受けた後で、天文台の前の並木のかげあたりに遊んでいる少年を見るにつけても国の方の自分の子供のことを思いやりながら、復た同じ道を下宿の方へ帰って行った。その年齢になって、四十の手習を始めたことを感じながら。
幾度か岸本は兄から来た手紙を取出して、繰返し読んで見た。「お前はもうこの事を忘れてしまえ」と言った兄の心持に対しては、彼は心から感謝しなければ成らなかった。