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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

の建築物、街路の角の珈琲店の暖簾なぞが、両側に並木の続いた町の向うに望まれた。あの大きな風呂敷包を背負って毎朝門前を通った噂好きな商家のかみさんのかわりに、そこには薪ざっぽうのような食麺麭を擁えた仏蘭西の婦女が窓の下を通った。あの書斎へよく聞えて来た常磐津や長唄の三味線のかわりに、そこにはピアノを復習う音が高い建築物の上の方から聞えて来た。それが彼の頭の上でした。

その窓へ行って、岸本は節子から来た手紙を読返した。彼女はお母さんの上京後、婆やにも暇を出したと書いてよこした。お父さんが名古屋から上京して初めてあの話があったと書いてよこした。その時はお母さんも大分やかましかったが、結局自分はしばらく家を出ることに成ったと書いてよこした。お父さんがある病院で知った看護婦長の世話で、自分はこの田舎へ来るように成ったと書いてよこした。その看護婦長は今は女医であると書いてよこした。至極親切な人で、この田舎に住んでいて、毎日のように自分を見に来て慰めてくれると書いてよこした。自分はある産婆の家の二階で、人知れずこの手紙を認めていると書いてよこした。叔父さんのことは親切な女医にすら知らせずにあると書いてよこした。