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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
門の外へも出て見た。清いセエヌ河の水は並木の続いた低い岸の下を流れていた。郊外らしい空気につつまれた対岸の傾斜には、ところどころに別荘風な赤瓦の屋根も望まれた。
細君の案内で、岸本は裏庭の方へも廻って、果樹、野菜なぞを見て歩いた。「今年はこんなに葱を造りました」なぞと岸本に言って聞かせる細君はいろいろ話そうとしてはそれが英語で浮んで来ないという風であった。日の映った梨の樹の下で、岸本は二人の子供を遊ばせている乳母にも逢った。
「日本の方だよ」
と細君に言われて、二人の子供は気味悪そうに岸本の方へ近づいた。そしてかわるがわる小さな手を差出した。岸本はそれらの幼い人達の手を握りしめたが、子供に話しかけたいにも仏蘭西の言葉ではまだ物が言えなかった。
「私も国の方へ子供を残して来ました」
この岸本の英語はまた細君にはよく通じなかった。
人の好さそうな細君はその家を囲繞く庭や畠ばかりでなく、家の入口から奥の方へ続いた廊下の両側に掛けてある種々な肖像の額の前へ、二階にある主人の書斎へ、子供の部屋へ、終には寝室へまで岸本を連れて行って見せた。丁度そこへ主人が帰って来た。