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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

とても国の方では話し合わないような話が異郷の客舎に集まった教授等と自分の間に引出されて行ったことを想って見た。旅の不自由と、国の言葉の恋しさと、信じ難いほどの無聊とは、異郷で邂逅う同胞の心を十年の友のように結び着けるのだとも想って見た。彼は一緒にルュキサンブウルの公園を歩いたりリラの珈琲店に腰掛けたりした教授連に比べて見て、どれ程自分のたましいが暗いところにあるかということをも思わずにはいられなかった。

毎日のように並木街をうろうろしている不思議な婦人が窓の硝子を通して彼の眼に映った。恐らく白痴であろうと下宿の食堂に集る人達は噂し合って、誰が命けるともなく「カロリイン夫人」という名を命けていた。「カロリイン夫人」は紅い薔薇の花のついた帽子を冠り、白の手套をはめ、朝から晩までその界隈を往ったり来たりしていた。何を待つかと他目には思われるようなその婦人の姿を窓の下に見つけたことは、一層岸本の心を異郷の旅らしくさせた。

「姪ゆえにこんな苦悩と悲哀とを得た」

ある仏蘭西の詩人が歌った詩の一節になぞらえて、彼は自分で自分の旅の身を言って見た。丁度そこへ岡という画家が訪ねて来た。