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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

着物も自分で畳めば、鬚も自分で剃った。一週に一度の按摩は欠かすことの出来ないものであったが、それも無しに済んだ。彼はずっと昔の書生にもう一度帰って行った。自分と同年配の人を見ると同じ心持で、国から到来した茶でも入れて年下な岡を款待そうとしていた。

「僕なぞは君、極楽へ島流しになったようなものです」

と言いながら岸本は椅子を離れた。岸本が極楽と言ったは、学芸を重んずる国という意味を通わせたので。

「極楽へ島流しですか」

と岡も笑出した。

岸本は洗面台の横手にある窓の下へアルコオル・ランプと湯沸を取りに行った。それは何処かの画室の隅に転がっていたのを岡が探出して以前に持って来てくれたものであった。留学していた美術家の残して置いて行った形見であった。

「岡君、国から雑誌や新聞が来ましたよ。僕の子供のところからはお清書なぞを送ってよこしました」

「岸本さんは子供は幾人あるんですか」

「四人」

と岸本は言淀んだ。岡はそんなことに頓着なく、

「皆東京の方なんですか」

「いえ、二人だけ東京にいます。三番目のやつは郷里の姉の方に行ってますし、一番末の女の児は常陸の海岸の方へ預けてあります。