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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
画架やら机やら寝台やらが置いてある天井の高い部屋の内には火の燃える音がして来た。岸本はその側へ椅子を寄せて、
「今日は君を見たくなって一寸やって来ました」
「好く来て下さいました。僕はまたあなたを訪ねようかと思っていたところでした」と岡が言った。
激情に富んだ岡は思わしい製作も出来ずに心の戦いのみを続けている苦い懶惰を切なく思うという風で、新しく張った大きな画布のそのままにして部屋の隅に置いてあるのを暖炉の側から眺めながら、
「岸本さん、僕はこの節お念仏を唱えていますよ――そういう心持に成って来ていますよ」
どうにでも釈れば釈れるようなことを岡は言出した。岡は更に言葉を続いで、
「巴里へ来てから、僕の有ってる旧いものはすっかり壊れてしまいました。見事にそれは壊れてしまいました。そんならどういう新しい道を取って進んだら可いかというに、それがまだ僕には見つかりません。僕はそれを待つより外に仕方がありません。それが僕の心に象を取るまで、あせらずに待つより外に仕方がないと思います。旅は僕を他力宗の信者にしました。僕はお念仏を唱えて、日々進んで行って見ようと思います。