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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
亜米利加の方から渡って来て画室住居するという小柄な同胞の婦人の画家にも逢った。
助教授を見送って置いて、岸本は地下電車でヴァヴァンの停留場へ出た。彼は所詮国へは帰れないという心を切に感じて来た。その心は国の方へ帰って行く人を見ることによって余計に深められた。ヴァヴァンから下宿をさして歩いて行くと、丁度羅馬旧教のコンミュニオンの儀式のある頃で、ノオトル・ダムの分院の前あたりで寺参りの帰りらしい幾人かの娘にも行き逢った。清楚な白衣を着た改まった顔付の処女等は母親達に連れられて幾組となく町を歩いていた。彼はこの知らない人ばかりの国へ来てこれから先の自分の生涯をいかにしようかと思い煩った。
「今日まで自分を導いて来た力は、明日も自分を導いてくれるだろうと思う――そんなに心配してくれ給うな」
東京の方のある友人に宛てて書いたこの言葉を、岸本は下宿に戻ってからも思い出して見た。出来ることなら彼は旅先で適当な職業を見つけたいと願っていた。出来ることなら国の方に残して置いて来た子供等までも引取って異郷に長く暮したいと願っていた。それにはもっと時をかけ好い語学の教師を得て、言葉を学ぶ必要があった。