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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

それを言って見せる彼女の眼には、まだ学校に通っている娘のような輝きがあった。あの河岸の柳並木のかげを往来した未知の青年の心――寂しい、頼りのなさそうな若い日の懊悩をよく手紙で岸本のところへ訴えてよこした未知の青年の心――丁度あの青年に似たような心をもって、叔父の許に身を寄せ、叔父を頼りにしている彼女の容子が岸本にも感じられた。彼女の母や祖母さんは郷里の山間に、父は用事の都合あって長いこと名古屋に、姉の輝子は夫に随いて遠い外国に、東京には根岸に伯母の家があってもそこは留守居する女達ばかりで、民助伯父――岸本から言えば一番年長の兄は台湾の方で、彼女の力になるようなものは叔父としての岸本一人より外に無かったから。その夏輝子が嫁いて行く時にも、岸本の家を半分親の家のようにして、そこから遠い新婚の旅に上って行ったくらいであるから。

「繁さん、お遊びなさいな」

と表口から呼ぶ近所の女の児の声がした。繁は岸本の二番目の子供だ。

「繁さんは遊びに行きましたよ」

と節子は勝手口に近い部屋に居て答えた。彼女はよく遊びに通って来る一人の女の児に髪を結ってやっていた。その女の児は近くに住む針医の娘であった。