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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

巴里を立退こうとしてその停車場に群がり集る独逸人もしくは墺地利人はいずれも旅装束で、構内の敷石の上へ直接に足を投出し汽車の出るのを待っていた。岸本は自分の直ぐ眼前で突然卒倒しかけた労働者風の男にも遭遇した。荷物をかかえた旅客、別離を惜む人々、泣き腫らした婦人の顔などまでが時局の急を告ぐるかのように見えた。岸本は高瀬と一緒に急いで下宿の方へ引返して来て、実に容易ならぬ場合に際会したことを思った。取あえず岸本は自分の部屋に籠って、国の方の義雄兄宛に形勢の迫って来たことを書いた。今後のことは測り難いと書いた。子供のことは何分頼むと書いた。彼は東京にある二三の友人へもいそがしく手紙を認めたが、西伯利亜経由とした故国からの郵便物は既にもう途絶していることをも知った。

夕方に、町へ出て見た。彼は早や大きな戦争を予想して悲壮な感じに打たれているような市民の渦の中に立った。そこここに貼付された三色旗の印刷してある動員令、大統領の諭告、貨物輸出の禁止令などを読もうとする人達が、今まで鳴を潜めて沈まり返っていたような町々に満ち溢れた。何となく殺気を帯びて来た人々の歩調も忙しげに岸本の胸を打った。