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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

戦時以来初めての死者の祭のことで、負傷した仏蘭西の兵士等まで戦友を弔い顔に集って来ていた。羅馬旧教の寺院には何等かの形で必ず表し掲げてある「十字架の道」――その宗教的な絵物語の尽きたところまで右側の廻廊について奥深く進んで行くと、そこに空いた椅子があった。岸本は高い石の柱の側を選んで、知らない土地の人達と一緒に腰掛けた。古めかしく物錆びた堂の内へ響き渡る少年と大人の合唱の肉声は巨大な風琴の楽音と一緒に成って厳粛に聞えて来ていた。丁度暗い森の樹間を通して泄れる光のように、聖者の像を描いた高い彩硝子の窓が紺青、紫、紅、緑の色にその石の柱のところから明るく透けて見えていた。

祭壇の方から香って来る没薬と乳香の薫は何時の間にか岸本の心を誘った。彼はこうした羅馬旧教の寺院の空気の中に実際に身を置いて見て、あの人間の醜悪を観つくした末に修道院の方へ歩いて行ったばかりでなく終には僧侶に等しい十字架を負う人と成ったという極端な近代人の生涯を想像して見た。彼はまた、あの男色の関係すらあったと言い伝えらるる友人との争闘より牢獄にまで下った末にデカダンスの底から清浄な智慧の眼を見開いた名高い仏蘭西の詩人の生涯を想像して見た。