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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

岸本はそれらの人達に眼をそそいだり、それらの人達の間をあちこちと歩いて見たりした。どうかすると見ず知らずの人にさえ御辞儀の一つもして見たいような気にさえなった。そして遠い国の方から帰って来たものであるというその心を告げたかった。

「牧野君。車なんかに乗らないで、これから宿屋まで歩こうじゃないか。もっと何処か歩いて見たいね――跣足にでもなって、そこいらを駈け廻って見たいね」

こう岸本が言出した頃は、久しぶりで見る国の日の光がもう税関の附近まで強く射して来ていた。岸本は連の迷惑なぞを顧みないで、それを言った。それほど彼は自分の小さな胸に満ち来る狂気じみた歓喜を隠せなかった。

牧野を誘って、以前と同じ旅館まで行く途中で、岸本は旧い馴染の顔に遇った。そこの亭主が彼を迎えに来てくれたのだ。旅館へ着いて見ると、そこでも岸本は三年振での人に遇った。往きの旅に東京の番町の友人等と連立って船まで別れを惜みに来てくれたその旅館の内儀だ。

岸本は既に激しい疲労を身に覚えていた。何よりも先ず彼の願いは旅の着物を脱ぐことにあった。しかし間もなく旅館へ訪ねて来た新聞記者の一団は牧野や彼を休ませなかった。