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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
鴨川の一日は岸本に取って見るもの聞くもの応接にいとまの無いくらいであった。こうして京都に着いた翌日には、酷く彼も疲労の出たのを覚えた。彼は東京の方へ帰って行った後の多忙しさを予想して、せめて半日その宿の二階座敷で寝転んで行こうとした。同じ部屋には旅行用の画具なぞをひろげた画家が居て、
「巴里の連中ですか。僕はまだ誰にも逢いませんよ。めったに皆と一緒になるような機会も有りませんよ。国へ帰ると、みんな澄ますように成っちゃって駄目ですね――ちっとも面白か無い」
こんな話をしながら画作に余念の無い人の側で、時には宿の女中が階下から上って来て話し聞かせる上方言葉をもめずらしく思いながら、岸本は苦しいほど疲れた自分の身体を休めて行こうとした。三年異郷で腰掛けることに慣れて来た彼は、畳の上で坐り直して見るにさえ骨が折れた。膝も脚も痛かった。彼は胡坐にして見たり、寝転んで見たりした。まだ彼はほんとうに身体を休めるというところまで行かなかった。
岸本が意を決して西京を発とうとしたのはその夕方であった。東京の方へ向おうとする彼の足はまるで鎖にでも繋がれているのを引摺って行くように重かった。