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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

あのどんよりとした半曇りのような空から泄れる巴里の日あたりとは違って、輝きからして自分の国の方の七月らしい日の光が坂道を流れていた。強い照返しは日除を掛けた車の中にも満ちた。どうかすると、その日あたりを見て乗って行く彼の頭脳の内部まで射しこんで来るかと思われるほど強く。車が動く度に近づいて行く留守宅の方のことは、そこに彼を待つ人達のことは、眼に見る日あたりのまぶしさに混って、しきりに彼の胸を騒がせた。彼は兄を見るの切なさにも勝り、嫂を見るの苦しさにも勝って、あの節子を見るには耐えないような気がして来た。自分の不徳ゆえに、罪過ゆえに、いかに彼女が変り果てているだろうかとは、それを想像して行くだけでも耐え難かった。

喘ぎ喘ぎ坂を登って行った車夫は高輪の岡の上まで出ると急に元気づいた。なるべく遅くと注文したいほどに思っている客を乗せて、車はぐんぐん動いて行った。ある横町に折曲ると、その角に煙草屋がある。ふと岸本はその辺に遊んでいる男の児の後姿を見かけて、それが自分の二番目の子供ではないかと思った。

「繁ちゃんじゃないか」

思わず彼は車の上から声を掛けて見た。