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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

てあった。岸本はこの屋根の下に多少なりとも清新なものを注ぎ入れるようにと努めた。どうかすると共倒れにでも倒れそうな気のするほど澱んだ家の空気の中から、何かしら生れて来るもののあるのを楽みにした。旅から帰って彼が見た節子は、朝も早く起き、嫂を助けながら家事の手伝いをして、すくなくも気を腐らせないで働いている人であった。「お前が帰って来てから、節ちゃんも大分元気づいた」――この兄の言葉から、岸本は自分の帰国が彼女にも多少の希望を与えたことを知った。なにしろ旅の空にある時でも、一番気に掛ったのは彼女のことであったから。その心から彼はすくなからぬ歓喜を自分の身に覚えた。

「父さんが帰っていらしったら、泉ちゃんや繁ちゃんまで眼に見えて違って来ましたよ――矢張、親は親ですねえ」

こういう嫂の言葉は、御世辞にしても岸本には嬉しかった。

何よりも先ず岸本の願いは自分ながら驚くばかりの激しい旅疲れを少しずつ休める事であった。そういう場合には、彼は二人の子供の側へ行った。客の前なぞで無理に折曲げて坐っていた膝をそこへ行って延ばした。腰掛けることに慣れて来た彼は、時には顔をしかめ、痛い足を擁えて、子供等の見ている前でうめくような声を出した。