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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
それほど彼にはまだ旅行者の気分が失せなかった。多くの場合に彼は電車の片隅に立って、他の乗客をめずらしく思い眺めて、半分異国から来た人のような心持で乗って行った。
嫂や祖母さんは家の方で夕飯の支度をしながら、岸本の帰りを待っていた。節子も皆と一緒になって働くだけはよく働いていた。時々岸本は節子の方を見てそう思った。一体嫂達は何か深く思い沈んだようなあの節子をどう見ているのだろうかと。嫂はこんなことはもう毎々だという顔付で、節子が家のものと口を利かないほど黙りこんでしまっていても、さ程気にも掛らないかのようであった。
その晩、岸本は兄と二人で奥の部屋に話し暮した。そこへ祖母さんも来て、
「節もまあ、あの手をどうかしてやらんけりゃ成るまいかと思いますが――」
と言出した。何事も知らずに郷里から出て来たという祖母さんは、三年このかた節子の瘠せ衰えたのを一つの不思議のようにして、多病な彼女のためにいろいろと気を揉んでいた。
義雄に取って、祖母さんは義理ある母親に当っていた。嫂がこの年老いた婦人の一人娘であった。義雄は岸本の家から出て、母方の岸本の姓を継いだ人だけに、祖母さんに対しては遠慮のある口調で、