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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

丁度八月の明るい光が緑葉の間から射し入って、雨降揚句のこの墓地を照らして見せた。蒸々とした空気の中で、寺男は汚れた額の汗を拭いながら、三つの髑髏の泥を洗い落した。その中で一番小さく日数の経ったのは頭や顔の骨の形も崩れ、歯も欠けて取れ、半ば土に化していた。一番大きなのは骸骨としての感じも堅く、歯並も揃い、髪の毛までもいくらか残って、まだ生々とした額の骨の辺に土と一緒に附着していた。それが泉太や繁の姉達だ。そして、その時働いてくれた寺男が今彼等の墓の前に樒を飾ったり線香を立てたりしてくれたその老爺だ。

鼻を衝くような惨酷な土の臭気を嗅いだその時の心の経験の記憶は、恐らく岸本に取って一生忘れることの出来ないものだ。過ぐる年月の間の恐ろしいたましいの動揺。その動揺は妻の死から引続いて起って来たというばかりでなく、実はそれよりもずっと以前に萌して来たことが辿られる。一番小さい幹子の死、続いて五歳になる菊子の死、更に七歳になる富子の死、彼はその三人を一年の間に失った。その頃の彼は、終にはもうこの墓地を訪ねることすら出来なかった。稀に彼の足がこの寺へ向いても、彼は自分の行く方角を考えて見たばかりでそこへ倒れかかりそうに成るくらいであった。