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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
岸本は氷の盛られたコップを一郎にも勧め、泉太や繁にも分けた。
「泉ちゃん、氷レモンだぜ。父さんも奢ったねえ」と繁はコップを手にして言った。
「ああ好い香気だ」と泉太も眼を細くして、手にした匙でコップの中の氷をさくさく言わせた。
「節ちゃん、氷は?」と岸本が訊いた。
「すこし頂きましょうか」と節子は答えて、人一倍皮膚の感覚の鋭くなっているような病のある手を揉んで見せた。
節子は叔父に対して言葉が少いばかりでなく、弟の一郎に対しても少かった。陽気で話好きな姉の輝子に思い比べたら、以前からして彼女は物静かな言葉の少い方の性質の人であった。でも、これほど黙ってしまった人では無かった。その日のように冴え冴えとした眼と、物も言わない口唇とは、延びよう延びようとして延びられない彼女の内部の生命の可傷しさを語るかのようでもあった。
墓参りも岸本に取っては帰国後の訪問の一つであった。訪ねられるだけ人を訪ねて見たいと思うその心持から言えば、まだまだ彼は思うことを始めたばかりだ。しかしこの墓参りを一切りとして身体を休めたいと考えるほど、人知れず制えに制えて来た激しい疲労を感じていた。