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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

お前の眼にはあの半分死んでいる人が見えないのか。その人を憐まないで、お前は誰を憐むのだ」

一度恐ろしい火傷をした悲痛な経験のあるものが今一度火の中へ巻き込まれて行った。岸本が、節子に対する関係は丁度それによく似ていた。しかし彼はもう以前の岸本では無かった。独身を一種の復讎と考えるほど、それほど女性を厭い悪むものでは無かった。二度と同じような結婚生活を繰返すまいとし、妻の残した家庭を全く別の意味のものに変えようとし、際涯無く寂寞の続く人生の砂漠の中に自然に逆ってまでも自分勝手の道を行こうとしたような、そうした以前の岸本では無かった。彼は神戸に着く晩は眠るまいと思うほどの心でもって遠くから故国の燈火を望みながら帰って来たものだ。陸の上に倒れ伏し、懐しい土に接吻したいとさえ思うほどの心でもって長い旅から草臥れて帰って来たものだ。

深い哀憐のこころが岸本の胸に湧いて来た。そのこころは節子を救おうとするばかりでなく、また彼自身をも救おうとするように湧いて来た。

三十八

節子を憐めば憐むほど、岸本は事情の許すかぎり出来るだけの力を彼女のために注ごうとするようになった。