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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

と岸本は言って見た。

節子は母親に許されて家の方から岸本を見に来た日のことであった。いくらかでも叔父の仕事を手伝うことは、こうして彼女の通って来る機会を多くした。まだ彼女は叔父の談話なぞを筆記するに慣れていなかった。それに彼女に与える仕事もそう時を定めて有る訳ではなかった。その日は彼は節子のやって来てくれたことに満足して、取り散らした部屋の内でも片付けて貰おうとした。

「でも、浅草の方に居た時分から見ると、よっぽどお前も違って来たね」

と岸本は節子の方を見て言った。節子は相変らず言葉も少なかったが、でもこうした延び延びとした気持で居られるのはこの二階に居る時だけだという風で、部屋の隅にある茶道具の方へ行ったり床の間に積重ねてある書籍の方へ行ったりして、そこいらを取片付けていた。

「これまでお前がいろいろな目に逢ったのは無駄には成らなかったと思うね。結局お前を良くしたと思うね」

とまた岸本が言って見せると、節子は叔父からそう言われることをさも張合のありそうにして、軽く溜息を吐いて見せた。

「お前の心持なぞはお母さん達とは大分違って来ているんだろう」

「みんな――裏切られてしまうんですもの」