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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

お前は元から瘠せたような人じゃなかったか」

「前にはこれでも肥っていましたとも」と節子はすこし萎れながら「祖母さんがよくそう言いますよ――『あんなに肥っていた娘がどうしてそんなに瘠せてしまった』ッて」

「お前の髪の毛だって、そんなに切れてもいないじゃないか。そんなに有れば沢山じゃないか。お前が巴里へよこした手紙には、心細いほど赤く短く切れちゃったなんて書いてあったっけが」

「漸くこれだけに成ったんですよ――」

と節子は言って、生え際のあたりの髪の毛をわざと額のところへ垂れ下げて見せた。

「節ちゃんは苦労して、以前から比べるとずっと良くなった。何だか俺はお前が好きに成って来た――前にはそう好きでもなかったが」

めずらしく岸本はこんなことを言出した。それを聞くと節子はいろいろなことを思出したように、叔父が遠い国へ行くからこうして復た一緒に話の出来るまでの彼女自身の艱難な月日のことを胸に浮べるという風で、首を垂れたまま黙ってしまった。

やがて岸本は節子に葡萄酒を持たせて家の方へかえしてやった。その時になってもまだ彼は再婚の望みを捨てなかった。自分も適当な人と共に家庭をつくり、節子にもまた新しい家庭の人となることを勧めようというその旅から持って帰って来た考えは彼を支配していた。