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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

こうした兄の話は、万更岸本にも思い当らないでは無かった。彼は一度家の方で嫂と話したことがある。その時嫂は彼に向って、「義雄さんは私に隠していることがある」と険しい眼付をして言ったこともあるし、「私達が東京へ出るように成ったのは、一体誰から言出したことなんですか――」と言って彼に問詰めたこともある。かねてからあの嫂の前に詫びよう詫びようと思っている彼に取っては、その時ほど好い機会は無かった。「詫びるなら、今だ」と命ずるような声を彼は自分の頭の上で聞かないでは無かった。けれども、彼は跨ぎにくい留守宅の敷居を跨いで兄や嫂と顔を合せたそもそもの日にもう詫び損ねてしまった。今更それを言出すことも出来なかった。帰国以来急激に変って来た節子との関係から言っても、猶々それが出来なくなった。罪の深いもの同志が如何に互の苦悩から救われようとして悶こうと、誰がそんな寝言のようなことを信じよう、そう考えて岸本は部屋の障子の側に悄然と立ちつくした。

四十七

泉太や繁のためから言っても、岸本は何時まで二家族同棲のような現在の仮の状態を続けて行くべきでは無いと思って来た。義雄兄の残して置いて行った嫂の噂はこの決心を促させた。