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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
もとより岸本は、姪の意志を曲げさせてまでも、無理に彼女を間違った方へ連れて行くつもりは無かった。彼と節子との間には二度結びついてしまうほどの根深いある物が横たわっていた。到底姑息な手段によって互の苦悩から救わるべくも無かった。叔父としての彼が苦しむ罪は、姪としての節子が苦しむ罪だ。もし節子の方から進んで罪過の責を分とうとし、彼女の一生を叔父に託してまでも不思議な運命を共にしようと言うならば、彼は再婚の生活なぞを断念しようとさえ考えて来た。それには彼はもっともっと節子を生かしたいと思った。
どういう生涯がこうした二人の前に展けて行くだろう。もしこれを押し進めて行ったら終にはどうなるというようなことは、岸本には考えられなかった。唯、彼はもう一度待受けようとする夜明のために、今まで二人で真暗なところを歩きつづけて来たような不幸な姪を道連として、せっせと支度を始めたことだけを感じていた。
旅から岸本が持って来た書籍の中には、ロセッチの画集も入っていた。それは彼が巴里の下宿に居た頃、ルュキサンブウルの公園の近くにある文房具屋で見つけて来たものであった。アーサア・シモンズの序文の仏訳までも添えてあった。